尾根沿いに一気に下る。枝や木々に見覚えが有り午前中登った尾根に間違いは無く全員無口になりながら下る。太陽が落ちるのが早いか我々がバイクの所に辿り着くのが早いか、走れメロス状態で尾根を下る。向かいの山に見える林道と同じ位の高さまで下って来たが尾根はまだまだ続いている。太陽は西の山に隠れいよいよ暗くなってきたが、まだ普通に動ける。

 日が沈んで30分、辺りは暗くなったが足元はまだ見えていて年と共に鳥目になってきた私でも何とか歩ける。暗くなった時のために持って来たマグライトを取り出し足元を照らすが、後続はライトが無くても見えるようでライトの光が返って邪魔の様である。

 尾根が広がり平らになって沢に出る。小さな沢を渡って向いの尾根に行こうとして濡れた岩に足を滑らせ転倒してしまう。幸いダメージは無く後続に岩が滑る事を伝えライトで岩を照らす。全員沢を渡り尾根を登り始めた時、突然マグライトが消える。スイッチを入れ直しても点かない。仕方なくライト無しで登り始めるが、さすがにこの時間になると辺りは真っ暗闇で何も見えない。斜面の途中でライターの明かりを頼りにマグライトを分解してして調べてみるが、突然ライトが消えた消え方からして球切れと判断するが予備の球は以前使用してしまっていたため無く、これでマグライトは使えない事になった。

 ここでこれからどうするかを考えるが、ライトも無く真っ暗闇の中を行動する事は非常に危険と判断(特に沢は危険)、適当な場所を探して今夜はそこで過ごし夜明けを待って下山する事に決める。

 今いる斜面途中から上に登って平らな所を探す。手探りで木や枝を探して捕まりながら結構な急斜面を登ると狭いながらも少し平らな場所に出てそこで朝を待つ事にする。

 全くの暗闇のため、明かりと暖房を兼ねて火を起す事にする。山で焚き火をすることは山火事の危険も有り出来るだけ避けたいのだが、この際そんな事は言っていられない。しかし火の管理は朝まで交替で誰かが見る事にする。M氏が焚き火係りを申し出てまず種火をつくる。テッシュやチョレート・カロリーメイトの紙箱等を使って火を大きくしていき、落ち葉や小枝・枯れ木を拾って来てそれを燃やそうとする火力が弱くなかなか上手くいかない。何回目かのトライでようやく火は大きく燃え上がり木に火が点いた。

 しかし燃料となる木を集めるのがこれまた大仕事で、暗闇の中で手探り、足探りで落ちている枝や木を探すのだがなかなか見つからない。日中あれだけ歩くのに邪魔になった折れた枝が手に入らないのである。周りには多分沢山落ちていると思われるが、見えないということが如何に大変な事なのか実感してしまう。こんな時アフガニスタンでアメリカ軍が使用していると言う暗視装置があればな!と、ふと思う。ま、懐中電灯でもいいのだが。

 最初は平らな所から集めた始めるが、採り尽してしまい次第に斜面の方を探し様になる。この作業で分かった事は、尾根の上方に向かって右側は崖に近い急斜面で危険な事、左側は大きな木も生えていて左側より緩やかな斜面で燃料採取可能である事が分かってきた。最初は折れた枝や木を探していたが、試しに地面から生えている生木を燃やしてみるとこれが以外によく燃える事が分かり、我々のいる場所の周りあった低い木々はドンドン消えていく事になる。

 我々は朝までここにいる事を決めたが、家にいる家族は我々が帰ってこなければ何かあったかと心配する事は想像される。しかし携帯電話が通じるはずもなく連絡手段は無くどうしようもない訳で、下手に動いて怪我でもしたらそれこそ心配が現実のものになってしまうため、我々が家族の心配を少しでも早く解消するための方法としては、家に少しでも早く連絡を取るため夜明けと共に行動し、少しでも早く山を降りて電話の通じる比立内に行き家に連絡を入れる事である。遅くてもAM7:00までには連絡が取れるだろう。

 しかし、このように帰れなくなる場合がある事を全員家族に告げていなかったため捜索願いでも出されたら大事になると心配したが、全員どこの山に行くとも言ってこなかったため捜索しようもないのでその心配は無いとの結論に達したのだが。

 ブナの落ちている枝は、細いのは何とか時間を掛けて乾燥させると燃えるが太い枝は火に入れると水が滴り落ちてきてなかなか燃えない。ブナがいかに水を含んだ木であるかを思い知らされる。

 ブナの落ち葉は、照明用の燃料として非常に優秀で明かるい炎をあげてよく燃え辺りを明るく照らし出すが、燃焼が長続きしないのが欠点である。しかしこの光は燃料調達の旅に出た時、海の灯台の様に帰るべき場所を示す大切な目印となってくれるのである。

 火もおきて少し落ち着くと腹が減ってきた。予備にとっておいたオムスビや食料を食べて空腹を満たす。寒さ対策で着替えようの下着や雨具など着れる物は全部着る。

 暗闇の中で見上げる星空はキラキラと輝いていて綺麗なのだが、星を見ていて一番驚いた事は星の動きの速さであった。周りを山で囲まれていて木々の間から見る星たちは、移動した位置が掴みやすく動きがよく分かる。朝まで焚き火のお守りと夜空を見るぐらいしかすることが無く、ふと見上げる夜空の星たちは静かにそして少しずつ動いていた。

  さっきまで木の枝の部分にいた星がもう幹の部分に移動している。星の動きは地球の自転と同じつまり時間の経過と同じなのだが、時間の経過より星の動きの方が大きく感じてしまう。日が暮れてから夜明けまで12時間近く、つまり地球が180度自転する間闇の世界にいた我々であったが、時間は星の動きと同じく思っていたより早く過ぎて朝を迎える事になる。

 火の番をAM2:30過ぎまでやって眠くなり、後をM氏に任せて横になる。地面に直接横になったのだが、ここの地面は冷たくなく温かい。ブナの葉が積もって出来たと思われる土はふわふわしていて横になっても痛くはない。

 木の根の間に体を合わせて横になった所までは覚えていたが、目が覚めたらM氏とK氏が起きていて火は燃やす木が無くなって消えかけていた。辺りは明るくなり始めていたが、今朝の冷え込みは厳しくなく助かった。 

 AM5:40、11時間近く滞在したこの場所を出発する。20m位登ると平らな広い場所に出る。こんな近くにこんなにいい場所が有るとは思ってもみなかった。薪を探しにここの数m手前まで来ていたはずだが暗闇の中では知る由も無い。

 10分位登ると見覚えがある場所に出る。昨日最初に取りついた杉林の上部である。ここからは昨日と反対に下って行けば帰り着けるはずである。一気に杉林の中を下るが、杉林の中は一応下刈りはしてあるのだが切りっ放しの木々が散在していて非常に歩き難い。山を歩いていると植林した後の手入れが悪い山を見かける事が多く残念である。山の手入れに人を雇えば失業問題も一気に解決し山も生きてくる。ダム一個造る金があれば何人の人間が雇えるのだろうか。杉林の中を30分位下って沢の上に出る。対岸に軽トラが停まっているのを発見、林道も見える。M氏が林道を走るパトカーを発見して我々を探しているのではと冗談を言う。

 M氏が沢の対岸にK氏のセローを発見する。我々は偶然にもバイクを停めた場所の対岸に降りてきたのである。沢に降りてバシャ・バシャと沢を渡って崖を少し登って、我々はAM6:30スタート地点に戻った。早速バイクの服装に着替えて脇道から林道に上がり家に連絡を取るため比立内を目指す。

 走り始めて直ぐ、前からシルバーカラーのスズキエスクードがやって来て手を上げて我々の行く手を塞ぐ。紺色のユニフォームを着た2人連れは○○さんですかと私に聞く。○○さんは後ろのあの人ですと教えると○○さんの所にエスクードは進み何やら話し込んでいる。こんな所で時間を取っては家への連絡が遅れしまうと気をもんでいると、○○さんがやって来て驚愕の事実を私に告げた。

 我々には捜索願が出ていて、家族が米内沢にある森吉警察署で寝ないで待機していると言うのだ。まだ7時前だよ。それは無いだろう。確かに心配な気持ちは分かるが夜中に捜索願を出しても警察が動くのは明るくなってからだし、何かあったにしろ3人全員に何かがある事は考え難くそうすれば誰かが朝に連絡が入れる可能性が大きい。捜索願いを出すなら朝まで待って欲しかった。それが私が○○さんからこの話を聞いた時の気持ちであった。


ともあれ、我々はエスクードの後ろに付いて家族の待つ森吉警察署まで連行される事となったのである。

 今回の金池森登山は翌日帰還という結果になり各方面に心配を掛ける結果になってしまったが、私としてはその時点、時点での判断に間違いは無かったと考えている。我々の登山は決まった登山道をトレースする登山と違って予定通りと言う事が無い登山なのである。ルートが決まっていないからこそ自ら状況を判断してルートを決めて進む。その場での状況判断を楽しむ登山と言っても良いかもしれない。

そのためにどんな状況になっても対応できる様な装備や準備して臨んでいるつもりである。選んだルートが正しかったかどうかの判定は、判定する人間が我々以外いないのだから出来ないのである。強いて挙げるとすれば目標地点に到達し、無事にスタート地点に戻る事、その事がその登山が成功であったかどうかの判断の基準になると考える。今回の事は、帰りが翌日になる場合もあるという事を家族に告げていなかった事が事体を大きくしてしまった原因で、その事は深く反省しなければいけないと考えてる。今後は気を付けたい。

 ヤブ山登山は足だけではなく、腕力、握力、腹筋、背筋などを使う全身運動で帰って来てから体が引き締まった感じで体調がよい。我々は後学のために普通の登山も行うが、決まったルートを歩く登山はただ足が疲れて楽しくない。

 太平山周辺の1000mクラスのヤブ山を登ってきた我々であるが、今回の金池森では今までの経験を生かして山を歩く事が出来、また色々新しい体験も出来て結構楽しいヤブ山登山であった。来年もまた新たなヤブ山を見つけてチャレンジしたいと考えている。

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 明るくなり始めると周りの状況が分かってくる。今いる尾根は登る前に見た杉林の左側上部に位置している事が判明する。これからどう行動するかを考える。この尾根を下るか、登るかをまず判断する。普通であれば山を降りるのだから尾根を下る所だが、どうもこの尾根は登り始めに見た滝に出そうな感じである。ここはあえて尾根を登って隣の尾根から下る事にする。

 出発の準備に取り掛かる。荷物をまとめてからチョコレートなどを食べてエネルギー補給をする。次に火の始末をする。これだけは念には念を入れて消さなければならない。火は殆ど消えかけてはいたが、このために溜め込んでおいた尿を焚き火に向かって放尿する。これで火は消えたと思われるが、飲料水を掛けて念を押す。最後に土を掛けて止めをさす。