
無理をすれば何とかなったとは思ったが、何かあった時一人では
どうしようもなく戻って空いたスペースに軽トラを停める。
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今回目標とした藤四郎森は、私が毎日通勤している手形陸橋からも見える山で以前登った大石岳手前の1,058mのピークの一つ手前に在る山である。藤四郎森は、1,058mのピークに登った時秋田方向に見た記憶はあるが、強く印象に残る山ではなかった。森と言うだけあって明確なピークが無く、こんもりとした印象であったと記憶する。
今回アプローチとして使うオサンド沢林道は、私は9〜10年位前一度セローで行った事があってその時は結構奧まで入って行けた記憶があった。私がヤブ山に行く時の足は通常セローを使用しているが、今回セローに乗る為の仕度が面倒になってしまったのと、以前の記憶から林道の奧まで車で行けると考え私のSUV ホンダアクティ4WD で行く事にした。
今日はアプローチ場所が近いため8時過ぎに秋田を出た私は、太平、岩見三内、鵜養と走り田沢スーパー林道に入る。林道を10分位走って右にオサンド沢林道に入る橋が見えて来て私はその橋を渡った。
オサンド沢林道に入ると道は轍の部分以外は6〜70cm位の草が生えていて車の下をザァーザァーと擦っていく。それでも暫く登って行けたのだが、路面が水の流れで削られ溝になっている場所に出る。
この付近の地質は荒い砂の様な崩れ易い物で、下手に溝に嵌って抜けられなくなると大変なので無理は出来ない。車を停めて先の状況を見に行くと路上に大きな石が落ちていたりしてこれ以上車で進むのは無理と判断、来る途中に見付けていた空き地までバックで戻る事にする。
この時はセローで来るんだったと後悔した私で有ったが、結局この選択が正解だった事を後で知る。
9時過ぎ登山靴に履き替えた私は林道を歩き始める。 |

林道脇の山には杉が植林されて妙に青々しい所が有る。
自然の景色に何とも溶け込まない景色である。
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私はヤブ山に上る時手に軍手を嵌めるのだが、周りの景色をカメラで写しながら歩くため片方の軍手をベルトに挟んで歩いていた。林道の両側には紅葉した木々やススキが私の目を楽しませてくれて、私はあちこちで立ち止まりカメラのシャッターを押していた。
暫く歩いた後、ふとベルトを見ると挟んでいた軍手が無い事に気付く。ヤブ山登山に手袋は必需品で、ヤブの枝や幹を手懸りにして登るため軍手がないと手が傷だらけになってしまうのだ。そのため私は軍手を探しに来た道を戻る事にした。
2〜300m程戻って見たが軍手は見付けられず、何処まで戻るかで私は悩んだ。トラックまで戻れば必ず発見できるのだろうが、そうすると相当な時間をロスしてしまう。日没が早い今の時期、出来るだけ時間のロスは避けたいので私は悩んだ。
結局私は左手中心で登れば何とかなると考え、軍手の探索を止め先に進む事にした。帰り道で軍手を見付けたのは、探すのを諦めた場所から50m位先の場所であったのだが、その時の私の判断が正しかったのかそうでなかったのかは微妙である。
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青空と紅葉とススキのコントラストが何とも美しい。
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トラックを置いて林道を歩いて来たのは正解だったようだ。ゆっくりと晩秋の景色を楽しむ事が出来たのは歩いて来たからあって、車に乗っていたのでは路面の凸凹は眺められても景色を見る余裕は無かった筈である。
暫く林道を歩いて行くと草が路面を覆い轍が無くなってしまった。林道が放置されて廃道状態になっていたが、踏み跡が有ってそれに沿って進んで行く。暫く行くとそれは突然私の前に現れた。
それは何と錆だらけの古いバスであった。 |
何でこんな所にバスが?・・・と一瞬思った私だが、考えてみたらここには以前林道があったわけで、バスがここに有っても不思議では無かった。
このバスは林道が荒廃する前、作業小屋代わりに此処に置かれたものと思われ、秋田営林署と書かれていた。どこかの廃道サイトだと結構このバスで盛り上がると考えられるが、廃道の遺物に興味が無い私は「これって不法投棄?」と思ってしまった。
内部を覗いてみると座席は取り払われており、最近まで休憩所として使われてのかそんなに荒れていなかった。バスの置かれていた場所から10m位先に在るの沢を越えた所が林道の終点であったようで、少し広くなっていた。 |

林道終点地点からオサンド沢入口方向を望む。 |

同じ場所からこれから向かう藤四郎森手前のピークを望む。
林道終点地点から来た道を振り返るとオサンド沢の向うに岩見杉沢川との間に在る600m位の山々が見えている。その向うには太平山が在る筈なのだが標高が低く見えていない。
反対側のオサンド沢上流方向を見るとこれから登るピークが見えているが、藤四郎森の山頂は見えていない。この季節になると太陽の位置が低く9時を過ぎても谷間の底には日が差し込まず薄暗い状態だ。 |

オサンド沢源流部。 |
藤四郎森に登るルートをオサンド沢左側の尾根に取る予定にしていたので、少し戻って沢を渡り沢の左側を登り始める。オサンド沢もここまで来ると水量も少なく幅は1m前後になっている。
直ぐに植林された杉の林の中に入り踏み跡が不明瞭になり斜面が次第に急になっていく。いよいよヤブ山登山の始まりなのだが、先ほど軍手の右側を無くしているためが右手を出来るだけ使わず左手中心で登って行く。
しかし、手で掴む手懸りが多いためそんなに登るのには不自由しなかった。この辺の杉林はまだ若く、間伐するにはまだ少し年月が必要なようだが地面が煩雑になっていて歩きづらい。
杉の人工林は、椈の原生林と違って景色に変化が乏しく登っていても楽しくない。早くこの林を抜けようと両手両足を駆使して人工林の縁に沿って高度を上げて行く。

しかし、私の右手には広葉樹の林が広がっていて色とりどりの葉が目を楽しませてくれる。 |
40分ほど登ってようやく杉の林を抜けると、標高も上がり展望が開ける。下を眺めると杉の植林された部分だけが妙に緑色で違和感が有り全体の景色の中で浮いていた。一度人間の手が入った山は、もう元に戻る事は無いのだろうな。 |
左手の岩見川方向には遠くに平野が見えていて、確認は出来なかったが多分秋田市街だと思われる。と言う事は秋田市から見える筈なのだが、秋田市から藤四郎森方向を見ると背後に1000m前後の山があり、輪郭がハッキリしないため確認が難しい。
北の方向に目を向けてみると太平山が見えている。奥岳山頂の三吉神社が肉眼でも見えていて、この場所が太平山に結構近い事を知る。
太平山拡大写真。
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杉の林を抜けるとそこには秋田の山本来の姿が広がっていて、色とりどりの葉が山々を彩っていた。私がこの季節に山に入るのはこの景色を見たいがためであり、ヒラヒラと舞い落ちる葉を見ながら静寂な世界を歩いていると、何とも心地良い。
山の傾斜が少し緩くなり、ヤブも薄く先ほどの杉林よりも登り易くなってペースが上がる。 |
ふと立ち止まり尾根の左手を見てみると、太平山地の最高峰白子森1,179.1mが大きな山容を見せていた。
尾根の右手方向を見ると対面する尾根が大分近くに見えるようになってきた。藤四郎森の山頂は向かいの尾根と私の登っている尾根とが一緒になった更に上に有り、山頂に確実に近付いているようだ。
頭上には鮮やかな赤の紅葉が天井を染めており、青空とのコントラストが何とも美しい。 |
●800mピークからの景色
北東方向に見えるピークは左が 番鳥森1029.7m
右奧が 大仏岳1166.8m と思われる。


椈の森は上を見るのが楽しい。 |
AM11:00過ぎ、800mのピークに到達する。少し早いが休憩と昼食を取る事にする。ピークといっても斜面途中の20m程のコブみたいな所で征服感は全く無かった。
荷物を降ろしザックから握り飯を取り出して食べいると、窪みを挟んだ向かい側で「ガサガサッ・・・ガサガサッ・・・」と音がする。私は慌ててザックに取り付けていた熊避けのベルを振る。
今年は台風の影響とかで熊に因る人に対する被害が全国的に報道されていて、今回の山行きも熊との遭遇を心配していた私は、結構焦ってベルを振ってしまった。単独で山に入った場合出会いたくない物の一つが熊で、戦って勝利する自信は私には無い。ベルを暫く振った後私は周りの様子を注意深くうかがったが、先ほどの音はもうしていなかった。
音がした方向を目を凝らして見てみたが、黒い影は発見されず私は再び握り飯を口に運ぶ。一個目を食べ終わり二個目を食べいた時また音がした。私は恐る恐る音がする方向を凝視してみる。すると30m位先の木の下でカモシカが一匹首を動かしガサガサ音を出しているではないか。
「カモシカだァ・・・。」 私は胸を撫で下ろすと共に緊張していた体の力が抜けていくのを感じた。少し間が有って、これは写真を撮らなければとカメラを手に取ってレンズを向けたのだが、私が目を離した隙にカモシカの姿は見えなくなっていた。
本当にカモシカがいたのか、私は夢を見ていたのではなかったのか。紅葉の山の中にカモシカは忽然と姿を消していたのである。
これが恐怖のカモシカ遭遇事件のてん末なのだが、単独での山行きでは色々な事が起きる。それもまた思い出として残るのだが、熊だけには遭いたくないな。
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今年の紅葉はこんな山の中でも台風の塩害の影響が有ったのか、今一つ冴えがないように思える。 |
AM11:30昼食と休憩を終え、再び頂上を目指し歩き始める。少し下った後また登りが始まるが、ヤブも濃くなく順調に標高を稼ぐ。30分程登って藤四郎森手前の870m位のピークまでやって来た。
ここから藤四郎森山頂までは30分は掛からないと思われるが、日が落ちるのが早いこの時期、私は12時になった時点で引き返す事を決めていて頂上まで行きたい気持はあったが、ここで引き返す事を決断する。単独では無理は禁物であり、決まりを守る事が安全につながるのだ。
暫しの休憩の後、来た道?を下って行く。引き返すと言っても道は無いわけで、登って来た時見た景色の記憶を頼りに下って行く。ヤブ山は下りが難しい事は何回も書いたが、一つ尾根を間違えばとんでもない所へ連れて行かれかねないヤブ山では、慎重にルートを選んで下った行く。
下りは殆ど自分の足元ばかりを見ている登りと違って、少し視線を上げると遠くの景色が目に飛び込んでくるので歩いて楽しい。下り始めて直ぐ見覚えの有る山々が見えてくる
正面奥に白子森、その右手前に番鳥森、その右奥に大仏岳、そして右手前に丹波森と、私がヤブ山に登り始めた頃に登った1000m級の山々が見えている。
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白子森1179.1m 1995年6月11日初登頂。 |
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番鳥森1029.7m
番鳥森に登ったのは大仏岳に登った2週間後の1995年10月29日で、私がヤブ山に嵌っていった頃に登った山である。
大仏岳1166.8m
大仏岳に最初に登ったのは1995年10月15日で、現在のようにハッキリとした登山道は無く苦労した思い出が有る
丹波森1030.8m
丹波森には1996年8月16日に登っているが、この時はヤブが濃くて山頂の標石を発見出来なかった。
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グレーのコントラストが美しいブナの森。
これが秋田のごく普通の山の姿である。 |
そもそも私がヤブ山に登り始めたのは、今から10年程前仲間とセローで河北林道や田沢スーパー林道を走り回っていた時、若い時山に登っていた事もあり林道から見える太平山や白子森の山々を見て登りたくなってしまったのがそもそもの始まりであった。
秋田市から近い太平山地には1000mクラスの山が沢山有り、そしてその山々の近くまで林道が延びているのを知った私は、セローで走り回っていた仲間と太平山地の山々にチャレンジを始めたのである。
太平山地の1000m級の山の中で、登山道が整備されているのは太平山周辺の山だけでその殆どが登山道の無いヤブ山であった為、我々は必然的にヤブ山にチャレンジしていく事になる。
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倒木に苔が生えて青々としている。緑が目に染みる。
紅葉と新緑を同時に見る? |
私は今話題のスギヒラダケ
だと思って写真を取ったが、
違っていた様である。 |
仁別オーパス・スキー場上部からアプローチした太平山前岳登山から始まった我のチャレンジは、次に太平山地最高峰の白子森に挑戦する。河北林道支線の井出舞沢林道から入った我々は白子森を登り始めたのだが、当時の白子森は現在の様に登山道が整備されておらず半分以上ヤブの状態であった。そのヤブが私をヤブ山に目覚めさせたと言っても良いかもしれない。
その年の秋、今度は太平山地三番目の標高を持つ大仏岳に西木村上桧内の浦子内沢林道からチャレンジする。この時の大仏岳チャレンジが、私がヤブ山に嵌る切っ掛けとなったのである
紅葉が真盛りの大仏岳で、私は秋田の山の素晴らしさを知り、道の無い山(すなわち人と出会わない静かな山)を歩く楽しさを知った。自分でルートを探して頂上を目指し、そしてスタート地点に戻るというこの簡単に思える事が、如何に難しく困難な事なのかを私は大仏岳で知った。
その難しさ故に私は次の年からヤブ山行きにのめり込んでいき、現在に至っている。太平山地の1000mを超える山に大方トライ(頂上を立ったという事では無い。)した私は、次第に標高の低い山に目標を変え現在は900m前後の山にチャレンジしている。
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杉の人工林は散かっていて歩き難い。
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下り始めて30分位で杉の人工林の上に出る。下りは速い。ヤブ山の下りは木の枝等に捕まりながら下るので、登山道の下りより足への負担が少なく楽に下れる。
登りの時もそうだがヤブ山登山は、普通の登山と違って両手両足を使う全身運動なので足への負担が少なく、日頃バイクに乗る事ぐらいしか運動しない私とっては体に優しい山登りなのだ。
私は登って来た時と同じ様に杉林の縁に沿って下っていたつもりだったが、いつの間にか杉林の中に入り込んでしまっていた。杉の林は木が混んでいて周りの見通しが効かず自分の位置が掴み難くい。
周りの地形の傾き加減から私のいる場所を推察してみると、予定のコースから右側にずれている様なので左斜め下方向に進む事にする。すると斜め前方に小さな尾根が見えてきてその尾根を下って行くと見覚えの有る場所に出た。やはり下りる方向が右にずれていた様である。
何とか予定のコースに戻り下って行くとバスがある場所に出る事が出来た。後は林道を歩いてトラックの有る場所まで戻るだけである。 |
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紅葉の王様はやはり楓。
楓の色の多彩さと鮮やかさは際立っている。 |
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奥に見える山は番鳥森。 |
林道を歩いて行くと朝に見た景色とは違った景色が目に飛び込んで来る。見る方向が異なると同じ景色がこんなにも印象が違うものかと驚いてしまった。太陽の位置が違う事も有るとは思うが、物事見る方向を変えると新たな発見が有ると言う事かもしれない。
朝通った時より鮮やかな赤が目に付く。その赤が青空に映えて何とも美しいのだ。鮮やかな色をカメラに納めながらゆっくりと歩を進める。
朝落とした軍手を無事回収して軽トラを置いた場所に戻ったのがPM1:50であった。これで今日のヤブ山行きは無事終了した。早速登山靴を脱いでサンダルに履き替える。この開放感が何とも気持ち良い。林道を歩いている間に汗も引き、着ている物も乾いていたので温泉まで着替えないで行く事にする。
今回セローではなく軽トラでアプローチした為、この場所に軽トラを置いて林道を歩く事になった。その為に林道途中の景色をゆっくりと鑑賞する事が出来て大変良かった。
反面アプローチに時間が掛かって登る時間が無くなり、山頂まで行けなかったのは少し残念ではあったが、私の場合山頂に立つのが目的ではなく目標なのでそれも仕方無い事であろう。 |

綺麗に修復された番鳥沢近くに崩落箇所。
山の上部から崩落していたのだが、崩落箇所を
モルタルと草で覆って崩落を防いでいる。
これで大丈夫なのだろうか?
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私が田沢スーパー林道に来たのは本当に久しぶりで、番鳥沢手前で崩落していた林道が綺麗に直っているとの情報を最近聞いていたので、チョッと行ってみる事にした。
田沢スーパー林道の路面は比較的走り易いオフロードだと思っていたら、軽トラの12インチタイヤではセローの様なスピードでは走れない事を知る。セローだったら5分も掛からないと思われ道を、倍以上の時間を掛けて崩落箇所に到着する。
崩落箇所は、これまた綺麗に修復されていて驚いてしまった。崩落していた時は修復不可能ではないかと思ったほど酷い状態であったが、金さえ掛けれは人間大抵の事は出来てしまう事を知る。
この後スーパー林道を戻ったのだが、川沿いの道にまで来ると乗用車が後ろに付いてきたのでスピードを上げてみる。すると軽トラの隠された才能が発揮され、結構なスピードで走れるではないか。
ゆっくり走っている時は一個一個穴を拾っていた12インチタイヤも、あるスピードから凸凹を感じる事無く走れるようになったのである。要するに中途半端なスピード駄目という事なんでしょう。私は乗用車をチギッて太平の貝の沢温泉に向かった。
1年以上ご無沙汰していた貝の沢温泉に到着してみると、門の中に新しく駐車場が出来ていた。貝の沢温泉も日々進化している事を知る。玄関横の帳場で420円の入浴料を払って温泉行くと温泉は以前のままであった。
いつもの様に温泉に入りながら今日の籐四郎森の事を思い出してみる。今日は天候にも恵まれ、綺麗な紅葉も見れたし晩秋の秋田の山を楽しめた。熊には会えなかったがカモシカには出会えたし、思い出の山々も眺める事が出来て一日有意義に過ごす事が出来た。
山に登る度に体力の衰えを感じる今日此頃ではあるが、来年もまた秋田のヤブ山を楽しみたいと考えている。次のターゲットをどの山にするかを考えるのもまた楽しみなのである。
終
Report by Ryuta
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